今回は将棋の観戦について、上達するのに役に立つのか?という観点から考察していきたいと思います。
観戦は将棋プレイヤーにとって楽しいコンテンツの一つです。近年は観る将という自分では将棋を指さずに観戦のみで将棋を楽しむ人の増えてきているといわれています。つまり、観戦というのはそれだけ面白いコンテンツといえるのでしょう。
では、この観戦は将棋が強くなるのかという意味ではどうでしょうか?
結論から言うと、観戦は将棋が強くなるという意味ではほとんど効果がないと考えられます。
その根拠を、人間が訓練による上達するための条件、3つのFに従って考えていきたいと思います。
ちなみにこのFの考え方は人間の能力向上はどのような方法で行われているのかについて研究しているアンダース・エリクソン教授の熟達化のプロセスによる考え方です。エリクソン教授はこの分野の第一人者で世界中で注目されている人物です。
最初のF、フォーカス
最初のFはフォーカス、つまり集中です。これは観戦するときに目的をもって集中しているかという意味です。
観戦は他人の将棋ですから、自分が真剣に将棋を指して考えているわけではありません。
自分が普段指している将棋と同じ戦法での仕掛け方や気になっている局面、最後の詰むやつまざるやの白熱した場面、このような場所では自分の問題のように考えることができると思います。
しかし、このような場面は観戦している中ではそう多くないのが実情です。
したがって、観戦を集中しながら見るのは相当難しいと考えられます。
2つ目のFフィードバック
次のFはフィードバックです。
フィードバックとは簡単に言うと行った行為に対する評価や結果情報を得ることです。
将棋の場合はどの手が良かったか?または悪かったか?などといったことを局後に理解することと言っていいと思います。
観戦の場合、多くの場合フィードバックを得ることはできません。
そもそも、本気で自分が指している将棋ではないので、集中して次の一手を考えることや全体の構想を考えていないと思います。
要するにただ、見ているだけなので、フィードバックを必要としていないのです。
また、それがプロの将棋の観戦であっても、解説者のプロ棋士の先生は観戦者の課題としている部分を解説してくれるわけではありません。
よって、丁寧に解説をしてもらっても頭にはほとんど入ってこないのです。
こうしたことから、フィードバックを観戦から得ることは難しいと考えられます。
3つ目のF、フィックス
最後のFはフィックス、つまり、改善です。
これもまた、上記の2つのF、集中とフィードバックを受けて初めて成立するものですから、あまり効果がないと考えられます。改善するべきポイントも特にない状態では当然、改善する必要はないということです。将棋を観戦しているときに指している人が指した手ではなく、自分が考えた手ならどうだっただろう?と考えて実際に対局者に聞いてみたり、自分で検討してみるといった場合は効果があると思いますが、こうした観戦をすることは非常に少ないのではないでしょうか?
多くの場合は、なんとなく見ているだけや意味は分からないけれども凄いなぁといった感じで観戦していると思います。
以上の3つの点で観戦は将棋上達にはあまり意味がないといえるでしょう。
しかし、上記の理由から、観戦しても上達しないというのであれば、課題をもって、集中して、局後に感想戦に加わったり、検討を行う観戦は意味があることになります。
この点を意識して観戦を行うのであれば上達にも関係する観戦が可能になると思います。
また、構想が面白い将棋であったり、相掛かりのような手が広い将棋の場合は自分では見つけられない構想を得られる可能性があります。
ただ、それならば他人の将棋を観戦するのではなく、自分で実際に指して、感想戦、検討をすればいいので、上達したいのであればそちらの方が良いでしょう。
実際、実戦をこなして、感想戦を行う人は上達が早いです。感想戦は3つのFすべてを満たした上達の近道です。
ちなみに、以前、遠山プロが観戦で将棋が強くなるかという話題に、近年、放送メディアの発達した結果、プロの中継が増えて、観戦する機会が増えましたが、みなさん将棋がどんどん強くなったとかないですよね?というような話をしていました。
やはり、観戦は楽しむための魅力的なコンテンツであり、将棋が強くなるという目的ではあまり効果が期待できないのではないかと思います。
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