上達法から見る将棋界戦国時代
2018年のプロ将棋界は久々に全てのタイトルを別人が持つという群雄割拠の戦国時代となりました。 いままでは羽生さんが絶対王者として君臨し、複数のタイトルを保持するといった形でした。 なぜ、このタイミングでこのような状態になったのでしょうか? これを将棋上達法という視点で考えてみます。 まず最初にこの8つのタイトルのを別人が持つようになった理由としてよく語られるものについて紹介しておきます。
① 20代の若手が台頭してきた。
② 羽生世代の年齢による衰え
③ AI(コンピューターソフト)による研究
ではこれらの事柄について考えてみましょう。
20代の若手の台頭
今までの将棋界のタイトルは羽生さんを中心に羽生世代という強力な世代がタイトル争いを中心に展開し、若手の壁となっていました。 しかし、近年のタイトル戦には若手の挑戦者が目立っていました。そういう意味では若手の台頭は間違いなくこの状況を作り出した原因の一つであると考えられます。 しかし、若手の台頭は原因の一つではありますが、なかなかタイトルまでたどり着くことはありませんでした。 また、名人を目指す順位戦はその仕組み上、若手がタイトルに挑戦するのに最低でも5年かかりますが、他のタイトルに関して言えば勝ち続けていればデビュー後すぐにタイトル戦を戦うことも可能です。 にもかかわらず、これまで有望とされる若手陣はたまにタイトルに絡む程度で、やはり絶対王者の羽生さんがタイトルを複数持っている状況でした。つまり、20代の若手が結果を残し始めたのは比較的最近なのです。
羽生世代の衰え
長年、絶対王者として君臨してきた羽生さんのタイトルが2018年ついに竜王一つとなり、その後、フルセットの激戦の末、タイトルは失われました。 タイトルは羽生世代という超強豪世代から若手へと移っていったことになります。このような結果を受けて、羽生世代の年齢的な衰えが戦国時代を作り出した原因という意見もあります。 しかし、本当にそうなのでしょうか? 年齢による衰えというのは脳の研究分野でもよくわかっていないし、研究者によってはこのような機能は衰えないという見解もあります。 将棋に関しても同様に衰えるかどうかはわかっていないのです。 また、羽生さんをはじめ、羽生世代が年齢による衰えだとしたら、その下のもう少し若い世代がその衰えに乗じて成績を上昇させるはずです。 しかし、30代の上位棋士が急激に勝ちだすということはなく、20代若手が台頭した以外にに大きな変化があるようには見えないのです。 そう考えるとやはり、年齢による衰え説は説得力に欠けるような気がします。
AI(コンピューターソフト)による研究
個人的にはこれがもっとも説得力があるのではないかと思います。 そもそも上達法でも考察しましたが、将棋の上達法として強い人と戦い、その人から学ぶというのは非常に効果の高い方法でした。(効果的な上達法考察)。 しかし、プロレベルにもなると明確に自分より強い人と訓練することは難しいのが実態です。 なぜなら自分より強い人はほとんどいないのがプロの世界であるし、相手の都合もあるので自分より強い相手と納得のいくまで訓練するのはほとんどできないでしょう。 すると当然、急激な棋力の向上は難しくなってしまいます。 そこに、2016年、コンピューターソフトである技巧が公開されました。これは一般公開されたソフトの中で確実にトッププロを上回る実力のあるものでした。 それ以前の強豪ソフトはもちろん戦えばプロに勝利する確率は非常に高かったのですが、大局観的な意味でトッププロを上回るかどうかは何とも言えませんでした。 この技巧の公開で貪欲な若手は自分より強い相手と戦えるようになったと考えられます。同時にこの頃から将棋界では対局中にソフトを使えないようにする規制について話題になるようにもなりました。ソフトがトッププロを超えたのが多くの人の共通見解となったということとみていいでしょう。 また、コンピューターソフトを使わなくてもそれらを使って棋力を向上させた人と訓練することによって全体的な底上げが可能になったのも忘れてはいけません。この結果、いままで破れなかった上の世代の壁を破る若手が出現したというのは説得力があるように思われます。 一番熱心に将棋の勉強をするのは若手世代ですから、そこに最高の練習パートナーが現れたのは大きいと思います。
まとめ
このように2018年の将棋界の戦国時代について考察しましたが、今後の展開はまだわかりません。 この考察が説得力のあるものであるならば、最も勉強している若手世代の更なる飛躍があると考えられます。 そして、一層群雄割拠の時代が続く可能性が高いです。 かつて、アマチュアの将棋のレベルもプロの将棋情報がインターネットによっていち早く得られるようになってから格段に上昇しました。 かつては熱心なアマチュアでもプロの棋譜や研究について知る機会は少なかったのです。これと似たようなことが起こる可能性は高いでしょう。 今後どのようになっていくのか楽しみです。
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