勝ちへの感覚とチェスの研究

勝ちへ近づく感覚、勝利眼とはいったいなんなのでしょう?

これに対する答えとして、将棋とほぼ同様の特徴をもつチェスの研究から迫っていきます。

チェス愛好家で心理学者でもあるデ・フロートはチェスの達人とそこそこの人を比較した研究を行いました。この結果、ある局面で次の一手を考える時にトップレベルのチェスプレイヤーは手を大して先まで読んでいないことがわかりました。また、同時に一手につき検討する候補手の数も多くないことが明らかになりました。さらにこの分野の研究は続き、目の動きを調査してみても正解手と関係ないところにいくことはほとんどなかったといいます。このような正解手へたどり着く判断は数秒で起こっており、脳磁図という機械で測定観察することができるといいます。

この測定ではプレイヤーが手を読む場合、強さの指標であるレーティングが高いプレイヤーは過去の経験部分を扱う脳領域を多く使う傾向があるのに対し、レーティングの低いプレイヤーは新しい情報を整理する脳領域を多用する傾向が見て取れました。

2007年にはデ・フロートがかつて行った実験を再現するかのようにナショナル・ジオグラフィックテレビがチェスの達人であるスーザン・ポルガーに様々な盤面を見せてそれを再現してもらうという記憶力実験を行いました。この結果はスーザン・ポルガーはチェスの実際のゲームに現れる盤面に関しては再現できましたが、意味のない駒の配置については再現できませんでした。これはチェスの達人たちがとんでもない記憶力をもっているわけではないことを意味しています。逆に達人が利用しているのは過去の経験であるといえるでしょう。

このことは強いプレイヤーほど過去の経験や知識を引き出しとして、それを元に勝ちに近づく手を選んでいると考えられます。また、この研究が明らかにしている重要な点は手を深く読んでいるわけではないということも重要です。これが意味するところは経験や知識の蓄積こそが勝ちへ近づく感覚の正体といえそうです。

これはチェスの話ですが、将棋の場合もかなりの類似性があります。(棋士の直観と将棋の研究)

では次にこの正体が見えてきたところで、この感覚の鍛え方について考えてみましょう。

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